『 寒〜〜〜い日々 ― (2) ― 』
へ〜〜〜〜〜っくしょい ・・・!
赤気のアメリカンは盛大なくしゃみをした。
「 ・・ へっ。 どっかでま〜たオレ様のウワサ
してやがるのか ・・・ へっ モテるオトコはツラいぜ〜〜
・・・・ へっくしっ! 」
いや。 ただ単に 寒い のだ。 それだけ・・・
「 う〜〜〜〜 ヒーター ぶっ壊れてやがるし ・・・
ジャンパーは 穴 開いちまったし ・・・
う〜〜 ・・・ どっかあったかいトコ ね〜かああ〜〜 」
彼はアパートのボロ・ヒーターを蹴飛ばそうとしたが
ぎりぎりで思いとどまった。
「 くそ〜〜〜 あのクソ大家に余計な金、払いたくねえし 」
ぼすん ・・・! 彼はベッドにぶっ倒れ 毛布をひっかぶる。
「 う〜〜〜〜〜〜 ・・・ サイボーグだってもよぉ〜〜
寒い時は 寒いんだっ う〜〜〜〜 NYは寒すぎる〜〜 」
― そうさ!
ここが寒いんなら
どっか別のトコ 行けばい〜んじゃ?
― そ〜〜だぜえ〜〜 決まり!
・・・ で どこ 行く?
あったけ〜とこ ってことは・・・?
つらつら思うに ・・・ アフリカ ― ムアンバ が一番に浮かぶ。
ピュンマはとにかく歓待してくれるだろう・・・ 優しいから。
しかし!
「 ・・・ そ〜だよ〜 いつか 夏に行ったら
妙〜〜に涼しかったじゃん? あそこ 高地なんだよなあ ・・・
ってことは 冬は 激寒 か・・・ ぶるるる やめ! 」
そんじゃど〜する??? 彼は思い巡らす。
「 そんなら ヨーロッパかあ?
アルベルト・おっさんがいるし〜 フランのアニキんトコもいいじゃ?
ブリテンのオヤジは ・・・ ロンドンにいるかもな〜〜 」
とりあえずエア・チケットでも・・・と タブレットを開いた が。
「 ・・・ そりゃ自前で飛んでった方が安上がりだけどよ
飛ぶってよ、結構冷えんだよなあ ・・・ あ? 」
欧州各国 寒波で交通網ダメージ
ニュース・ページでとんでもない見出しが目に入ってきた。
「 げ。 ・・・ んな時に行ったら 雪掻き やらされる・・・
おっさん めっちゃ機嫌悪いに決まってる・・・
や〜〜め。 それ以外って う〜〜ん ・・・?
同じアメリカなら ・・・ ああ アイツんとこ、山小屋ってか
自然のど真ん中なんだよなあ ・・・ 人里離れたトコでさ
ヒーター なんてねえだろうし 冷える なんてもんじゃね〜だろ が 」
ごそごそご ・・・・
毛布に包まりつつ 彼はつらつら思い巡らす。
バーボンでラッパ飲みしようか、と思ったが さすがにそれは
思い止めた。 ・・・ 酔うまでに何本必要か、考えたくない。
「 と なると。 あそこだな〜〜〜 快適空間〜〜〜
冷暖房三食昼寝完備 の ギルモア邸〜〜〜 じゃ〜〜〜ん♪ 」
決〜〜〜め! 彼は とん、とベッドから飛び降りた。
「 ほんじゃ〜〜〜 ちょっくらお邪魔しまあ〜す と! 」
エア・チケット? ・・・ んなもの、この赤毛はすっとばす。
「 目立つからイヤなんだけどよぉ ・・・
ま 防寒着だと思って ― 行くぜ〜〜〜〜 」
赤いあの特殊な服をひっぱりだし なんとか身につけると
バシュ −−−−
車より軽い発射音が聞こえ ― 次の瞬間には 窓からなにかが
飛び出していった。 ― 窓は 開けっ放しの まま ・・・
NYの冬は冷える ・・・ 部屋は どうなるのだろう
( 知らんけど )
― ( 数十分か 数時間か わからないけど ) しばらくの後。
トントトトト トン !
ギルモア邸の窓が 陽気な音を立てた。
「 ? あ ? 鳥さんがエサ、食べにきたのかなあ〜 」
「 あ きっと そうよ。 昨日 ミカンを半分にして刺しておいたから 」
「 そっか〜〜〜 ゴハンの邪魔 しないようにしよ 」
「 ええ ・・・ カーテン 引いて 」
「 うん。 ゆっくりゴハン 食べてね〜〜 」
シャ −−−− 遮光カーテンが引かれた。
「 !? ちょ・・・ な〜〜んだよぉ〜〜〜〜
おい〜〜〜 オレだよぉ 開けてくれ〜〜〜〜 」
ガラリ ? 一番大きな窓が細めにあいた。
「 ・・・? あ あれ! ・・・ マジィ??
わるい〜〜〜 ジェットぉ 玄関に周ってくれるう? 」
茶髪の仲間が ちら・・・っと顔をみせた。
「 んだよ〜〜〜〜〜 ちぇ 」
ジェットは大股で表庭を突っ切って行った。
・・・ ここはど田舎、辺境の地? なので。
あのはっでな服を 見とがめるヒマ人はいなかった。
「 へい はろ〜〜〜 ・・・・ って な んだ??? 」
リビングのドアを開け。 アメリカンは棒立ちになった。
こ ここは ・・・ ギルモア邸 だよな??
オレの部屋もある オレらの家 だよ な?
彼の目の前の光景は ―
ギルモア邸のリビングは 完全に 昭和な日本の居間 になっていた・・・
いや アメリカンの目には < 見なれぬ異境の地 > にすぎないが。
でも それでも あまりにあまりに彼が知っている ギルモア邸 とは
かけ離れていたので ある。
広いリビングの真ん中には で〜〜〜んと大きなローテーブルが置いてあり
羽毛布団が四方に垂れている。
そして この邸の定住組は なにやらもこもこしたジャケットみたいなモノを
着込んで ローテーブルを取り巻き座っている。
ふくふくしたジャケットは ダウン・ジャケットとは かなり違う。
袖がやたら大きくて 前をとめるジッパーもボタンも ない。
ヒモで結わえているのだが・・・
茶髪君は 青地に黒い棒縞 ( ストライプ とは違う )
金髪娘は ふっくらした丸い花模様の赤いジャケット。
そして ご当主のギルモア老のは なにやら黄色地に洒落た模様だ。
な ・・・ んだ???
キモノ?
ちがうな もこもこしてる??
・・・ 仮装大会 か??
さすがのアメリカンも 状況が全く理解できず ひたらすら
ぼ〜〜〜〜っと突っ立っているのだった。
― さて。 時計の針を少々戻してみよう。
この邸の定住組が それぞれ皆大きな包を抱えて帰ってきた頃。
お互いのサプライズで 盛り上がりまくり・・・
わいわい大騒ぎでそれぞれの包を ご開帳 となった。
第一の包は・・・
まずは リビングはソファやらサイド・ボードを片寄せ
床にもう一枚、ふかふかのカーペットを敷いて ・・・
真ん中に コタツ を置いた。
屋根裏のロフトから予備の掛布団をもってきて掛けた。
「 どうだね ジョー。 これで 正しいコタツの仕様 かい 」
「 博士〜〜〜 これですよ これ! わああ〜〜い 最高! 」
「 ・・・ ジョー。 これ ・・・ 暖房器具なの? 」
「 そうなんだ〜〜 あのね ここにこう〜〜〜 入る! 」
ぼすん、 ふわ。 ジョーは布団の端を持ち上げ
コタツに脚を入れた。
「 ・・・ ん〜〜〜〜 あったか〜〜い 」
「 え え? ここに 座るの? 脚 なげだしていいの?
わああ ・・・ 脚が ・・・ いい気持ち♪ 」
「 ふふふ ワシもなあ コズミ君の家で < 体験 > して
是非我が家でも と思っておったよ 」
「 我が家の冬は コタツできまり、ですよね〜〜 」
第二の包は・・・
「 わあお ウルトラ・ライト・ダウンだあ〜
ねえ これ。 今年のバージョンだよね? いいなあ〜
欲しかったんだ〜 ありがと〜〜 フラン〜〜〜 」
「 おお おお 軽いが温かいなあ〜〜
これは助かるよ、外套でもこんなに軽いものがあるのだなあ 」
ジョーも博士も 新作ダウン・コート に大喜びだった。
「 うふふ ね〜〜 すご〜〜く軽いでしょう?
そのわりにしっかり温かいし。 わたしもすごく気に入ってるの
ベストはねえ レッスンでも着るのよ 」
フランソワーズは 大満足だ。
そして 第三の包 ・・・
「 ワシは家の中の防寒着じゃ。 ・・・これを着てごらん?
ああ ああ セーターの上からでよいのじゃよ 」
博士は 不思議な和風の上着を取りだした。
「 あらあ 〜〜 可愛い模様! これ・・・ キモノですか? 」
「 わ♪ あったか〜〜い〜〜〜〜 動き易いし♪ 」
ワカモノ達は 目新しい <上着> に歓声をあげた。
「 ふふふ これはなあ 半纏 ( はんてん ) というのじゃよ。
中に綿が入っていて温かいよ。 キモノみたいに見えるがなあ
腕も自由に動かせるし、ワシには肩が楽でうれしいよ 」
「 わあ 皆 色ちがいのお揃い なんですね♪
うふふふ ・・・ あ〜〜〜ったか〜〜い〜〜〜〜〜
あ んてん? ですか 」
「 フラン、 半纏 だよ 」
「 ・・・ h の発音 苦手なの。 」
「 冬の普段着にしておくれ。 とにかく温かい 」
・・・ ということで。
湘南のとある町の町外れ、海に近い崖の上に建つギルモア邸。
一見、少々古びた洋館だが その実ハイテクなんぞを遥かに超えた
超〜〜〜現代的・セキュリティ対策完備のスーパー・ハウス。
現在の住民は ご当主と思われる白髪のご老人と その娘さんと
おぼしき妙齢の金髪美女。 そして 続柄がよくわからないが
たいそう笑顔のカワユイ茶髪ボーイ、彼はどうもニホンジンらしいが
この三人である。
そして。
邸のリビングでは 家族はコタツに潜り 全員半纏でぬっくぬく・・・
天板の上には 地元の艶々みかんが籠に山盛り。
脇には電気ポットと湯呑み茶碗。 コーヒーの瓶やらティーバッグ、
お煎餅の袋なんぞも転がっている。
「 はあ〜〜〜 あったまるぅ〜〜〜 」
「 ええ きもちいいわねえ〜〜〜 ふう 」
「 うむ うむ 適温じゃ・・・ ふぁあ〜〜 」
三人はそれぞれぼ〜〜〜〜〜・・・・っとシアワセそう〜〜な顔だ。
「 あ ごめん ・・・ 足・・・ さわった・・・ 」
「 え あ ううん うふふ 」
「 ・・・ え ひゃあ ・・・ えへへへ ( つんつん )
」
「 あ〜〜〜 えいっ! うふふふ 」
「 ! って〜〜〜〜!!! ・・・ フラン〜〜〜
手 使うの、反則だあ〜 」
「 ああら 手なんて使ってませんけど? 」
彼女は天板の上で 両手でみかんを持っている。
「 え〜〜 だって 今 ぼくの脛、抓ったよね? 」
「 ふっふっふ〜〜〜♪ 親指と人差し指でやったの〜〜 足の。 」
「 うそ〜〜〜〜 靴下 脱いでるんだ〜 」
「 だあって キモチいい〜んだものぉ〜〜〜 ふふふ 」
「 お前たち な〜にやっとるのかい。 子供みたいだぞ 」
ついに博士が口と挟む。
「 「 はあ〜い 」」
二人は顔を見合わせ ・・ ふふふっと笑う。
・・・ いや 見ようによっては二人でいちゃいちゃしていた・・・
感じなのだが。
「 あ 晩御飯ね うどん鍋 にしようよ? あったまるよぉ 」
「 う どん? Ou
dont ・・? 」
「 あ〜〜 え〜と ・・・ ジャパニーズ・ぬ〜どる かな 」
「 そのぬ〜どる をどうするの? 」
「 いろ〜〜んな野菜とか肉と煮込むんだ〜
おっきな鍋でね ぐつぐつ・・・ そこから皆で食べる!」
「 へ え・・・? なんかイメージ 沸かないけど・・・
あ お肉ならチキンとポークがあるわ。
お野菜なら・・・え〜と ダイコン ニンジン 長いネギ
それに シイタケ ・・・ あ ほうれん草も あると思うわ。 」
「 わお〜〜〜 上等! あと なんか ・・・
ハンパに残ってるのでもいいんだ なんか あるかなあ? 」
「 ハンパに?? ・・・ あ と〜ふ。 それから〜〜
ジョーの好きな かにかま。 」
「 お いいじゃ〜〜ん み〜〜んな入れちゃう〜〜
そんでさ コンロ使って、コタツで食べよ! 」
「 え ここで?? 」
「 そうだよん。 も〜〜ね 超〜〜〜ほかほかだよ〜
材料を切って鍋にいれて〜 あとはぐつぐつ・・・さ。 」
「 ふうん? 面白そう〜〜 味付けは? 」
「 ああ 出汁を用意して煮込むんだ。 顆粒ダシでもいいし。
具材のいろ〜んな味がね 混ざってそこがまた 美味しい 」
「 ふうん ・・・ お鍋ってどんなのがいいの?
お味噌汁作るやつ? 」
「 うん それで十分 ・・・ 」
「 鍋料理 かい? ああ それなら ―
確か 土鍋 があるはずだぞ ? 」
博士がPCの向うから 口を挟んでくれた。
「 え 土鍋が?? うわお〜〜〜 すげ〜〜〜〜
本格的に うどん鍋 ができるよ〜〜
あ ぼく コンロを調整しておくね。
フラン〜〜 具材をさ、キッチンに出しておいてくれるかなあ
ぼく 切るから 」
「 あらあ わたしにもなにかやらせてよ? 」
「 お サンキュ♪ じゃあ 一緒に野菜とか切ろうよ
な〜〜んか 超豪華鍋 になりそう〜〜 」
「 あとは何を用意すればいいの? 」
「 ん〜〜〜 うどん鍋だけで主食もメインも副菜もカバーなんだ。
・・・ あ それじゃ 浅漬け とか切っておいてくれる? 」
「 オッケ〜〜 わたし キュウリの浅漬け、大好き♪
今度ね キャベツも漬けてみたいの。 」
「 あ いいねえ〜 ふふふふ〜〜ん♪
今晩は 超〜〜 あっまる・御馳走だあい 」
じゃあ 準備するね〜 と ジョーは気軽にコタツから 離脱 した。
― そして 晩御飯。
「 どうかな〜〜 フタ とってみるね 」
ジョーは大きな土鍋のフタを よいしょ・・・と持ち上げた。
もわあ〜〜〜〜〜 美味しそうな香の湯気が盛大に立ち上る。
「 ん〜〜〜 あ いい感じ〜〜〜 」
「 ・・・ なんかものすご〜〜〜く いい匂いね! 」
「 えへへ 匂いだけじゃなくて味もいいよぉ〜〜〜
じゃあ 晩ご飯にしよ。 食器、もってくる 」
「 わああ〜 わたし 博士をお呼びしてくるわね 」
「 ん。 ・・・ あは コタツから出るのって
ちょっと勇気がいるね 」
「 ホント・・・ う〜〜 でも〜〜〜 そんじゃ・・・
せ〜のっ あ〜と〜は! 」
「「 ゆうきだけだあ〜〜〜〜 」」
二人で合唱?し ぽん、とコタツから離脱した。
ホントにホントに その日の晩御飯はさっいこ〜〜 だった。
ハンパに残っていた野菜をごたごた入れたので いい出汁が出た。
豚肉とカニカマ、豆腐と油揚げ がしっかり主菜になってくれて
コシのあるうどんは いくらでも食べられた。
「 ん〜〜〜〜ま〜〜〜〜〜〜 」
「 ほうほう これはいい味じゃなあ〜 どれもう一杯 」
「 ・・・ どうしよう〜〜 美味しすぎ〜 」
三人は それぞれお好みの具に舌鼓を打ちつつ うどん鍋 の
虜になった。
「 ピリ辛が好きだったら キムチとかいれてもいいんだ 」
「 わたし この味がいいな。
ねえ すご〜〜〜く 優しい味 ・・・ お腹もあったまるし 」
「 そうじゃなあ〜 胃腸への負担が少ない健康食か 」
「 ま ともかく 美味しくたべてあったまれば(^^♪
風邪なんか寄せ付けないよ 」
「 そうね そうね ・・・ あと コタツ があれば♪ 」
「 これもさ〜〜 半纏♪ 」
ジョーは 青い棒縞の生地をそう〜〜っと撫でている。
「 へへ ・・・ ぼくの。 ぼくの半纏 さ 」
「 ほんにのう〜 この冬は寒さが厳しいと聞くが ・・・・
ウチはこれで乗り切れるかな 外出も怖くないぞ 」
博士は フランソワーズが買ってきた ウルトラ・ライト・ダウンも
気に入ったらしく 手元に置いている。
「 そうですよね! あ〜〜〜 満足ゥ 」
「 ふふふ ジョーってば顔が緩んでるわよぉ 」
「 だあってさ ・・・ へへ ウチっていいね〜 」
「 そうね そうね あ 片付け やるわ。 」
「 いいよ 大丈夫。 食器も少ないしさささっと済ませて
― またコタツに戻ってくる〜 」
「 ありがと ジョー。 じゃ わたし お茶を淹れておくわ。
博士、冷たいものがいいですか? 」
「 いやいや ワシもお茶がよいよ。
どれ・・・ 仕事の続きをするかな 」
「 わたしも ・・・ 」
食後は それぞれの時間をやっぱりコタツで過ごす。
博士はノートパソコンを持ち込み フランソワーズはポアントにリボンを
縫いつける作業に没頭し ジョーは寝ころんでスマホで動画を見ている。
そんなこんなで ・・・
ギルモア邸ではしっかり リビング中心の生活ができあがった。
そう ・・・ 昭和の時代 家族がお茶の間に集まっていたように ・・・
― そんなど真ん中に 赤毛のアメリカンが飛び込んできたのである。
呆然と立ち尽くしていた彼の意識を まず刺激したのは
― 匂い だった。
部屋中に漂う香辛料を利かせた・あの刺激的な・そして蠱惑的な 匂い。
彼の感覚は まず嗅覚から復活してきた。
「 ・・・ んだよ? お! カレー かあ?? 」
アメリカ人は盛大に鼻をヒクつかせた。
「 だよなあ〜 これ。 今晩 カレーか? ラッキー〜〜〜
オレ あれ好きだぜえ〜〜〜 鍋一杯でも楽々だもんな 」
「「 ・・・・ 」」
ローテーブルの布団の中に潜り込んでいた二人は 怪訝な顔をしている。
博士も やっとメガネを外し、この闖入者を見た。
「 おお ・・・ よく来たな。
あ〜〜 まず手を洗ってウガイじゃ そして そのドアを閉めておくれ 」
「 や〜〜 博士 え ・・・ あ〜 わりぃ〜 」
彼は案外素直にバス・ルームに行き ドタドタと戻ってきた。
「 へ へへへ・・・ 焦って靴、脱ぐの忘れてたぜ〜〜
あ もう ちゃんとスリッパ ・・・ 」
その足元には あのマークがついた・スリッパが★
「 !!! 」
フランソワーズの眉が きり〜〜〜っと信じられない位攣りあがり
次の瞬間 ジョーは布団の間からダッシュで飛び出し
この闖入者を引っつかんで玄関へと引っ張っていった。
「「 ジェットぉ 〜〜〜〜〜〜〜 !!! 」」
― その日の晩御飯・・・
んま〜〜〜〜〜〜 ズズズ ゴゴゴ ズ〜〜〜〜
「 ん〜 お代わり! 」
ジェットは意気揚々とどんぶりを差し出す。
「 え ・・・ ねえ 何杯目?? 」
「 いくらなんでも ・・・ 大丈夫? 」
「 へ〜き へ〜き。 なんせNYからぶっとんできたし?
着く早々拭き掃除 したし? まだまだ入るぜ〜〜 」
! 当たり前じゃない?
も〜〜〜 土足で!
あのスリッパは ヤバいって。
何回言えば 覚えるだよぉ
・・・ 覚える気、ないか。
鍋の底をかっさらう勢いで 食べ続ける彼を
ジョーもフランソワーズも 呆れ顔でながめている。
この日の昼食は カレーうどん。
和洋折衷の傑作ともいうべき、このメニュウを コタツ・鍋 で三人で美味しく
頂いた。
「 ・・・ なんか すご〜いわねえ・・・ お腹の底からぽっかぽか♪ 」
「 これは美味いなあ カレー味だが和風出汁ともしっかりマッチしておる。
このとろ味のある出汁が ・・・ ああ うん ・・・ はあ〜 」
フランソワーズも博士も絶賛だった。
「 えへへ でしょ? 寒い日にはさ 最高だよね〜〜
カレー好きにも 和風好みにも ぴったし!
えへへ ぼく 大好きなんだあ〜〜 」
ジョーは得意気な顔だ。
「 ね こんど 大人にも御馳走してみない? びっくりするかもよ 」
「 そうだねえ あ それでさ カレー・ラーメン とか
開発するかも〜〜〜 」
「 あら ホント! ・・・ちょっと美味しそうよね?
カレー・ラーメン とか カレー・シュウマイ とか 」
「 いい いい! 張々湖飯店の新しい人気メニュウだよ 」
・・・ なんて和気あいあい@コタツ だったのだ。
そのカレーの香が まだ抜けないうちに ― 闖入者が飛び込んできた。
― そして。 そんな彼の夕食は カレーうどんの残り に冷蔵庫に転がっていた
野菜の切れ端だのカチカチの半端肉だのをぶち込み
煮詰めたモノ となった。
あ〜〜〜 ・・・
本来のカレーうどん とはかなり違うけど
ま いっか〜〜
本人が気に入ってるんだし?
あらあ〜 よく食べるわねえ・・・
ふふふ お蔭で冷蔵庫に転がってた
ハンパ食品が一気に片付いたけど(^^♪
こ〜ゆ〜のを ウィン・ウィンの関係 というのだろ〜か ・・・・
「 あ〜〜〜 ・・・ うめ〜な〜〜〜〜〜
なあ ジョー〜〜 お前ら こんな優雅な暮らし してんのかよぉ 」
赤毛のアメリカンは や〜〜っと箸、いやフォークとスプーンを置いた。
「 え ・・・ あ ああ うどん鍋のこと? 」
「 ん〜 それもだけどよぉ これ! この、めっちゃご機嫌な
テーブル・ベッド〜〜〜 」
「 ・・・へ? てーぶる・べっどぉ?? 」
「 身体中がほっかほかだぜぇ〜 さっいこ〜〜〜〜 」
どさ。 バンザイの恰好で彼は後ろに転がった。
「 ちょっと ジェット! お行儀が悪いわ。
ご飯のあと、すぐに寝転がると牛になるんですってよ 」
フランソワ―ズが眉を顰め小言をいう。
「 ・・・ はあん? んなこと、聞いたことね〜けど? 」
「 あら 有名よ。 ねえ ジョー? 」
「 あ うん ・・・ 」
「 ほうら。 この国ではみ〜んな知ってるって。
さあ起きて。 お行儀悪い! 牛さんだってそんな風に寝ないわ たぶん。」
「 ・・・ こりゃ 極楽 だぜぇ〜〜〜
なあ ジョー。 このテーブル・ベッド、すぐに買えるか? 」
赤毛のアメリカンは フランス娘の小言などどこ吹く風 だ。
「 こたつ だよ。 こ た つ。
ああ 家電量販店でいつでも買えると思うよ 」
「 ふ〜〜〜ん ほんじゃ買って帰るかなあ 」
「 え 」
「 丁度さ、オレんちのアパート、ヒーター 壊れてて。
これ 買って帰れば ばっちりじゃん〜〜 」
「 いいけど さ。 家電だからね、海外用があるか
確かめた方がいいよ。 電圧の関係 あるだろ 」
「 あ ・・・ 博士〜〜〜 なんとかしてくれよぉ 」
「 ・・・ ?? なんだな 」
博士はコタツの反対側で パソコンに没頭していた。
「 すまんな なんの話かね 」
「 あのよ〜〜 この こたつ。 NYでも使える装置、
ちょいちょい・・っと捻ってくれね〜かぁ 」
「 ああ? ・・・ コレを持って行かれては困る。 」
「 の〜の〜。 店で買ってくるからさ それに細工してくれよ 」
「 お安い御用じゃ、 ちょいちょい じゃよ 」
「 サンキュ。 ほんじゃ ちょっくら行ってくらあ 」
ばりん。 どどどど −−−−
止める間ものなく ・・・
赤毛のアメリカンはテラスへのサッシの一枚をふっ飛ばし
文字通り < 飛んで > いってしまった。
あ。 またァ〜〜〜
「 も〜〜〜〜 ジェットぉ〜〜〜〜〜 !! 」
「 ・・・ あ あの・・・フラン ・・・
あの そんなに怒らないほうが ・・・ 眉間にシワが 」
「 ええ 大丈夫ですよっ! もう〜〜〜〜 汚してぇ〜〜 」
フランソワーズはぷんすか怒りつつコタツから飛び出し
窓を全開すると 掃除機をごーごー言わせ始めた。
「 ・・・ あの さむいんだけど 」
「 え? ああ ちょっと空気を入れ替えましょ。
床の掃除もね〜〜 ついでだから 」
カチリ。 ばさああ〜〜〜〜
彼女はさっさとコタツの電源を切ると 炬燵布団をさ・・・っと持ち上げた。
「 ジョー。 これ ちょっと干してきてくれる? 」
「 え。 だってもう夜だよ? 」
「 あ〜 そうねえ ・・・ じゃあ 埃をはらってきて?
ぱんぱん・・・って ね 」
「 ・・・ あ ・・・ うん わかった 」
「 博士。 お掃除しますからキッチンか書斎に移動してくださいね
」
「 あ ああ うん。 ( へ〜〜っくしょい! ) 」
博士は半纏の前を掻き合わせそそくさ〜とリビングから出ていった。
さあ。 お掃除です!
夜だって キレイにしなくちゃ ね。
掃除機を持って勇気凛々 ― もう寒くなんか ない。
― 結局。
翌日、ジェットは コタツとカップうどん そしてレトルト・カレーを
山ほど背負って故郷へ戻った。( 自力で )
防護服仕様の < はんてん > も博士にねだったが・・・
「 お前 それを着て飛ぶつもり か 」
「 あったりめ〜よ〜 このオレは ジェット様 だぜえ? 」
「 無理 じゃな。 」
「 え。 博士に出来ねえこと あるのかあ ? 」
「 失礼なコトを言うな! ワシに出来んことは ・・・ 少ない!
防護服仕様は簡単じゃがな あの形態のモノを着て飛んだら
― お前 風船みたいに どっかに浮き上がっちまうぞ 」
「 え〜〜〜 ああ ぶかぶかだもんなあ ・・・
でも オレ ・・・ NYでも着たいんだよぉ 」
「 ふふん では、こうやって ・・・ 飛んでゆけ
上に防護服を羽織れば なんとかなるじゃろ 」
博士は 自分の半纏を脱ぎ彼の背に括りつけた。
「 え ・・・ カッコわりぃ 〜〜〜
ん? けど あったけ〜〜〜〜♪ いいね これ! 」
そ〜ら〜〜を こ〜〜えてぇ 〜〜〜〜 ♪
このアメリカ人は 日本アニメの古典ソングをハナウタしつつ
< 飛んで > いったのだった。
ギルモア邸で 冬の定番は コタツにうどん そして半纏。
お出かけには うるとら・らいと・だうん。
「 ・・・ あ〜〜〜 ホント 脚が楽なのぉ〜 」
「 ふふふ あったまるよね〜〜〜〜 」
「 頭寒足熱 というが 本当だな
お いかん、資料を持ってくるのを忘れたぞ 」
博士は 渋々コタツから離脱。
− 二人っきりになれば〜〜〜
「 ねえ 今晩、お鍋でいい? お豆腐と牛肉に切り落とし が
安かったのよぉ あと ネギとダイコンがあるわ 」
「 いいね いいね〜〜〜 ふふふ こちょこちょ〜〜 」
「 あ やだあ〜 ツンツン(^^♪ 」
「 えへへ ・・・ すべすべ〜〜〜 」
「 ・・・ やん♪ くすぐったいぃ〜〜 ちょんちょん 」
「 いてっ あ〜〜 そこ 抓るぅ? 」
「 あら そこ ってどこぉ? 」
「 ・・・ん〜〜 ここ さ♪ ちょい 」
「 きゃ ・・・ やあああん・・・ うふふ〜〜 」
・・・ ワカモノ二人は コタツの中であっつ〜〜い交流中☆
ぱっと見には ほのぼの並んで座っている のだけどね。
冬になったら。 家族で集まって にっこにこ・・・
さむ〜〜〜〜〜い日 でも ぽっかぽか さ♪
******************** Fin. *********************
Last updated : 01.11.2022.
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*********** ひと言 **********
あんまり寒い日が続くので こんなハナシになりました★
コタツはね〜〜 我らのお国が世界に冠たる暖房器具 だと
思うのですがね ・・・ うどん 大好き♪